給水タンクの役割
阪神・淡路大震災では、貯水機能のない直結給水方式を採用した建物で地震発生直後に断水し、住民の方々が飲料水・生活用水の不足に苦労されました。これはいずれの都市・町でも起こりうることです。
給水タンクは、水(飲料水・生活用水)のストック機能と供給機能を持つ建築設備です。地震災害に対して十分な耐震設計を施しているので、水を安全に守ります。
もし、首都圏で直下型地震が発生した場合…水の確保は困難です。
「日本では全ての地域で地震がある…」と言っても過言ではありません。もし、首都圏で直下型地震が発生した場合、水に関してどのような被害が想定できるでしょうか。 |
地震後に首都圏では、東京約371万人、横浜を併せ459万人の帰宅困難者が発生し、東京駅には約200万人が交通手段を求めて集合・滞留すると予想されています。
また、首都圏では地下水位の上昇がみられるので、液状化現象が発生すると地下鉄・JR等の路線が被害を受け長期間利用できなくなり都市部に人口が集中することが考えられます。
東京都地域防災計画震災編で、「震災時における飲料水の供給基準を一日ひとり当たり3リットルとし、都全体で約4週間分を確保する」との報告がありますが、中央区・千代田区など人口が極度に集中する地域では、4週間分の保有水量では需要に対応できないことは明白です。
例えば、前記のように東京駅周辺で約200万人が滞留して、一日一人当たり3リットルの水を供給すると、日比谷公園の地下にある最大1,500トンの給水槽を利用しても、1日で4分の1の50万人しか給水できません。
給水タンクは通常時は縁の下の力持ちですが…、緊急時には頼りになる機能を発揮します。
地震時の給水タンクの被害状況でみたように、新耐震仕様の給水タンクは地震に対して強く、水のストック機能を保持し続けます。公共・民間を問わず建築物への給水タンクの設置で、地震災害時には確実に飲料水や生活用水を確保できます。また、学校などの避難所や病院では、給水タンクが予備水や緊急用水の貯水槽として使用され、このことから、給水タンクの設置場所は緊急給水拠点や援助活動拠点にもなります。
地震災害時には、給水タンクで多様な水源と水量を確保できます。
下図は東京都区市の災害時に確保できる水源の数と量を表したものです。公共・民間受水槽の合計数と水量の多さがわかります。震災時にこの確保された水を有効利用しない手はありません。新耐震仕様の給水タンクであれば、震災初期の飲料水を確保できますし、個数の多さは危機を分散し大切な水を大量に確保することになります。
安心と安全をお客様に提供…、それがお客様へのセールスポイントです。
給水タンクの設置は、直結給水方式に比べて水を確実に確保することで、お客様に「安心・安全」という最も基本的なサービスを提供できます。
建築物などの設計・計画時には、給水タンクの設置をお考えください。飲料水用だけでなく雨水貯留用を採用するなど、危機管理を設計思想に取り入れることで設計のグレードを上げ、災害時に住民だけでなく地域へ水を供給するという、社会貢献に備えることが評価されるポイントだと考えます。
全国の「指定給水装置 工事事業者 工事施工要領」に受水槽・高置水槽の必要性が記載されています。(例:東京都は平成19年1月版)
【直結給水が認められないもの】
- 一時に多量の水を使用する、又は使用水量の変動が大きい施設、建物等で、配水小管の水圧低下をきたすもの
- 毒物、劇物、薬品等の危険な化学薬品を取り扱い、これを製造、加工又は貯蔵する工場、事業所及び研究所
例:クリーニング、写真及び印刷・製版、石油取扱、染料、食品加工、めっきなどの事業を行う施設
【受水タンク方式が適当なもの】
- 常時一定の水圧、水量を必要とするもの
- 断水した場合に、業務停止となるなど影響が大きい施設及び設備停止により損害の発生が予想される施設
例:ホテル、飲食店、救急病院等の施設で断水による影響が大きい場合
食品冷凍機、救急病院等の施設で断水による影響が大きい場合
特に、冷凍機の冷却水等、継続的な給水を必要とするものに対しては、水道が配管小管の工事等で断水した場合、直結給水では、大きな損害を被ることがあるため、平常時において直結給水の給水が可能であっても、入水タンク方式とすることが適当である。
建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(通称:ビル衛生管理法)が改正されています。
全ての特定建築物に設置された給水タンクは、ビル衛生管理法の規制対象となります。
「特定建築物」とは、興行場・百貨店・集会場・図書館・博物館・美術館・遊技場・店鋪・事務所・学校・旅館等の用に供される相当程度の規模を有する建築物のことで、建築物の用途・述べ面積等によって指定されていました。改正前は、特定用途以外に用いられる部分の面積が、特定用途部分の面積の10%を超えた場合は同法の対象から除外されていたので、建物の大規模化、複合用途化が進んだ結果、特定用途に該当するテナントが多く入居しているにもかかわらず、法の規制対象とならない建築物が増えてきました。この様な理由から、これら除外されていた建築物も法の対象となるよう、関連省法令が改正されたのです。つまり、全ての特定建築物には給水タンクの設置と衛生管理が必要になりました。
災害時における給水システム全体の問題点どれだけの量を確保できるか…生活用水は…。
各自治体は水道ビジョンを基準とした水道施設耐震化の計画・指針案を作成し、水道関連施設・配管系の耐震化に取り組んでいます。水道ビジョンは水道の将来あるべき姿を想定していますが、その実現には水道関連施設・配管系だけを耐震化するだけでは不十分だと考えます。
被災者 要望の変化
地震により被害を受けた個々の人々が要望するものは「水」・「住居」・「食べ物」です。初期の段階では緊急物資などの供給で要望は満たされるかもしれませんが、数日で住民の要望はトイレの水・風呂・洗濯と変わってきます。すべて「水」特に「生活用水」にかかわってきます。各自治体においてもこの要望への対策はあるかもしれません。しかし、量的に十分でしょうか…。また、この対応には大都市では限度があり、夏場ともなれば要望はより強くなることでしょう。
必要な水を量的に確保できるか…
日々の生活を支える水道網は、人間の血管にたとえられます。血管は身体の末端まで、活動のための酸素や養分を運びます。
この血管の末端に酸素や養分をためることができたなら…。
活動するための余力を貯えることができたなら…。
ひるがえって水道網に戻ると、例えば末端の集合住宅に「水」を貯えることができるなら…。
災害時には給水タンクに「水」を貯えることで、飲料水・生活用水に使用できる水を量的に確保でき、復旧までの生活環境を維持するための一助になります。水道網には住民の生活がかかっています。ただ供給するだけではなく、非常時の対策をさらに住民(被災者)の立場に立って考える必要があると思います。人間の身体にも治癒能力があるように…。
問題点
- 飲料水としての指針はあるが、生活用水の確保については各戸任せになっている。
- 緊急避難所での生活では、風呂・トイレが整備されるまで時間がかかる。
- 災害時に水を給水車まで取りに行くが、重労働であり、生活用水を確保するまでには至らない。
- 行政では配管系の耐震化に取り組んでいるが、整備にコストと時間がかかる。
- 災害時、停電・断水により、水の供給は困難になる。
地震災害時 自立日数のケーススタディ
30世帯の住む集合住宅(マンション)を想定し、その一般的な受水槽(15m3)の中に10m3(1万リットル)の水が確保されていたとして、住民が自立し生活できる日数を検討してみました。居住人数は1世帯4人とし、30世帯では120人となります。表-3より初めの3日間は3リットル、4~7日目までは20リットル使用した場合と、毎日3リットルを使用し続けた場合について、120人の住民が何日間自立して生活できるかを試算してみました。
給水タンク設置のメリット
試算結果のように、給水タンクの貯水機能を活かせば、地震災害時に水源として利用することで生活を維持できます。 また、停電・断水の場合、集合住宅に被害がなくとも、上階に水を運搬するときの労力を考えると、個人で使用する水の確保量には限度があります。ちなみに、神戸市では上水道の完全復旧に3ヶ月、新潟県柏崎市では19日間が必要でした。 給水タンクは貯水機能だけでなく、想定される危機を分散し、安心・安全を確保する機能も備えています。
給水タンクの耐震設計
日本給水タンク工業会は、阪神・淡路大震災後の9月に震災の被害調査を基に耐震実験を実施しました。実験で得られたデータは(一社)強化プラスチック協会を通じて、スロッシング対策など「新耐震基準」に取り入れられました。給水タンクの耐震設計は新建築基準法を遵守した「建築設備耐震設計・施工指針」に沿った設計・施工をしています。 |
スロッシング現象 |